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加工しろを設計してワンランク上の図面を描く |  設計サプリNO,39

[掲載日]2024.05.15

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設計者のみなさま、いつもお世話になっております。
株式会社ナカサ見積り担当です。
弊社では、私たちが見積りする中で経験したコストダウンに関する情報を「設計サプリ」と題してご紹介させていただきます。
第39回目は「加工しろを設計してワンランク上の図面を描く」です。
設計者のみなさまは図面を描くとき加工しろを考慮されていますでしょうか。
加工しろは製作者が設計する場合が多いですが、製品設計段階から考慮してあるとトラブルが少なくなりますのでリスクヘッジできるワンランク上の図面になりますよね。
今回の記事ではこの加工しろの設計について紹介します。

加工しろとは

加工しろ(仕上げしろ、削りしろとも呼びます)とは調達した素材を削っていく過程で、切りくずになる部分を言います。
棒材や、角材を削る場合(削り出しと呼びます)加工しろの設計は不要なのですが、鋳造やダイキャストなどのニアネットシェイプで製作する場合、加工しろをどのくらい付けるか決める必要があります。
また、この加工しろを設計するとき形状を若干変更する場合があります。

ニアネットシェイプとは

完成品に近い状態に製造することを、ニアネットシェイプ(Near net shape)と呼んでいます。
ニアネットシェイプで製造した後機械加工で仕上げます。
鋳造、鍛造、ダイキャスト、金属造形(3Dプリンター)などがこれに該当し、様々な工業製品で利用されています。
設計者のみなさまが設計を担当される製品にもニアネットシェイプで製造するものがあるのではないでしょうか。

加工しろの設計事例

具体的な事例を使って加工しろの設計を紹介します。
今回の記事で使用する事例はギアボックスです。
軸受けが入るH7公差の半円穴に同軸度が指示されているので、製品の歪、変形を考慮しておく必要があります。



変形しやすい形状か

最初にCAEを利用してどのくらい変形するか確認します。
図にようにバイスクランプを想定して計算しますと、
クランプ力を2000Nとした場合の変形量は最大で0.2㎜でした。
(2000Nはクランプ力としては弱い)

これでは品質を担保できませんのでバイスクランプはあきらめて別なクランプ方法を検討します。
(この事例の場合は6か所あるツバを挟んでクランプします)

穴は埋める

クランプ方法の案が決まったら加工しろの設計をしていきます。
まず穴を埋めます。
どのくらいの穴まで埋めるかは素材の製造方法にもよりますが、Φ10以下は埋めて考えてそれ以上は後述する加工しろを付けます。
(今回の事例では鋳造品位を考慮して中央のΦ25の穴も埋めます)

加工しろを付ける

次に加工しろを付加します。
加工しろを付けるのは加工記号のある基準面と軸受け面と中央の丸座です。
どのくらい付けるかと申しますと鋳造公差を考慮して1~1.5㎜程度です。

今回紹介していますギアボックスは基準面から溶湯(溶けた金属)を流す為、その部分は表面の品位が悪くなる可能性があります。よってこの基準面は2~3㎜程度加工しろを付加します。

平座の範囲を指定する

この製品はボルトで締め付けて組み付けます。
使用するボルトの座面を確保する為、必要な平座の範囲を少し余裕もって設定します。
今回の事例ではこの平座は加工ではなく鋳出しで考えます。

パーティングラインを考える

次にパーティングラインを考えます。
パーティングラインとは素材を金型で作るために必要な割面のことです。
図に示すように半分で分割する境界面を指します。

この事例の場合、境界面は一つの平面ではなく階段状になります。
このまま階段状のパーティングラインにしても製造は可能ですが、コストを考慮するとできれば単一面にしたいですよね。
そこで形状を少しボカしてパーティングラインを単一面にしようと思います。
パーティングラインが単一面になるよう形状をボカシした図を以下に示します。

このような設計は製作側からの要望として扱われるケースが多いですが、あらかじめ考慮してあるとやり取りが減って時短になります。

素材モデルを確認する

加工しろの設計が終わりましたので完成した素材モデルを確認します。
このとき内角や外角に鋭いエッジが無いかも確認します。
なぜかと申しますとエッジはバリや素材不良の原因になる場合があるからです。

加工しろを考慮した図面を描く

ここまで設計した加工しろを図面に反映します。
加工しろは製造条件により変更できるように参考寸法とします。
また内側のC0.5は素材形状としたい為(加工しない)参考寸法としています。
以上を反映した図面を以下に示します。



まとめ

今回の記事で紹介しました加工しろの設計は製造性を検討するのに役に立ちます。
大切なことは加工しろの数値ではなく、加工しろの付く箇所をイメージすることです。
詳細は製造担当と打合せになることが多いですが、設計段階で想定しておくと、「加工しやすい」、「検査しやすい」図面になります。
是非参考にしていただきワンランク上の作図を目指して下さい。

弊社ではニアネットシェイプ素材の製造を含めた機械加工品を取り扱っております。
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【参考文献】

実例で学ぶ機械設計製図 実教出版株式会社 2019年6月20日初版第1刷発行 製図例2-2

【この記事を書いた人】

稲田聡(いなたさとし)
株式会社ナカサ 開発室長
ファクトリー・サイエンティスト No,00385
1966年島根県安来市生まれ
1989年からCADによる設計に従事し、当時は自動車のインパネ部品で基板やプリズムなど設計していました。
1991年から現在の会社で主に金型設計で3次元CAD/CAMを利用するようになり30年間複数のCAD/CAMと格闘した経験を持ちます。
現在はコストプラン、センサーを使ったデータ視覚化、インサイドセールスにも取り組んでいます。

【過去に書いた記事】

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